K中間子原子核と見られる信号を観測 -原子核の超高密度状態の実現を示唆-

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公開日

永江知文 理学研究科教授と藤岡宏之 同助教を中心とする国際共同研究グループは、K中間子原子核と呼ばれる全く新しいタイプの原子核K - ppと見られる信号を実験により観測しました。また、今回の観測結果は、K中間子原子核が普通の原子核を結びつけている力の十倍程度の強い力で結合している可能性を示唆するものでした。このことは、原子核内において超高密度状態が実現している可能性を示しています。

本研究成果は、日本物理学会発行の論文雑誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics 」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

永江教授

今回の実験で観測されたような大きな束縛エネルギー(通常の原子核の結合エネルギーのおよそ十倍)が、K中間子と原子核との相互作用に起因するものなのかどうかは、今後の詳細な研究が必要と思われます。今回見つかったK - ppらしき状態は、核子数(陽子と中性子の個数和)が2個のK中間子原子核ですが、今後の研究として、核子数が増えた際にその性質がどう変化するのか、あるいは、K中間子が2個になったらどうなるかなどに興味が持たれます。

概要

K - pp束縛状態は、2002年に日本の研究者、赤石義紀氏、山崎敏光氏により存在が予言され、多くの研究者が探していたものです。イタリアやフランスの加速器を利用した実験において、日本人研究者がデータ解析を主導して、その証拠らしきものを報告していましたが、他の実験による検証が待たれていました。両氏の計算以降、多くの理論計算もなされ、K - pp束縛状態の存在は理論的に予想されていましたが、今回の実験で観測されたような大きな束縛エネルギー(通常の原子核の結合エネルギーのおよそ十倍)は理論計算では再現できていませんでした。

そこで本研究グループは、J-PARCハドロン実験施設のK1.8ビームラインにおいて、π中間子ビームを重陽子標的に照射し、その反応で前方に放出される正K中間子を測定する実験を行いました。同グループは、このときわずかな確率で生成されるK中間子原子核K - ppらしき信号を検出することに成功しました。K中間子原子核K - ppは2個の陽子と1個の負K中間子から成る最も単純なK中間子原子核です。このK中間子原子核の検出は、K - pp状態がハイペロンと陽子に崩壊する際に放出される2個の陽子を捉えることにより可能となります。

今回の実験では、2個のエネルギーの高い陽子を捉えました。また、その際に前方に放出される正K中間子のエネルギーを測定した結果、このK中間子原子核の結合のエネルギーと見られるエネルギーは、通常の原子核において陽子や中性子1個あたりがもつ結合エネルギー(約8MeV)の十倍程度にのぼることがわかりました(図)。


図:観測されたK中間子原子核K - ppの質量分布

(a)陽子2個を測定した場合。赤い線のピークがK - ppの質量(約2.275GeV)に相当する。これは、K - ppの束縛エネルギーが約100MeVであることを意味する。(b)陽子1個を測定した場合にも似たような構造を観測

詳しい研究内容について

K中間子原子核と見られる信号を観測 -原子核の超高密度状態の実現を示唆-

掲載情報

  • 京都新聞(3月18日 27面)に掲載されました。