二つのタンパク質が協働してRNAを認識する新しいしくみの解明 -RNAに埋め込まれた暗号を解く手がかりに-

ターゲット
公開日

2014年8月18日

萩原正敏 医学研究科教授は、黒柳秀人 東京医科歯科大学難治疾患研究所准教授と、武藤裕 武蔵野大学薬学部教授/理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター客員主管研究員(当時、理化学研究所生命分子システム基盤研究領域チームリーダー)、桑迫香奈子 同講師/同センター客員研究員(当時、同研究領域リサーチアソシエイト)、髙橋真梨 同センターリサーチアソシエイト(当時、同研究領域リサーチアソシエイト)らの研究グループとの共同研究により、線虫のRNA結合タンパク質であるRBFOXファミリーとSUP-12が標的である線維芽細胞成長因子受容体遺伝子egl-15のメッセンジャーRNA前駆体を協働的に認識して、筋特異的に選択的プロセシングを制御するための構造基盤を明らかにしました。

本研究成果は、国際科学誌「Nature Structural&Molecular Biology」に、2014年8月17日午後6時(イギリス夏時間)にオンライン版で発表されました。

研究者からのコメント

たくさんの遺伝子のRNAの加工が組織や細胞の種類に応じて巧妙に制御されるしくみは未だに完全には解明されておらず、RNA加工の「細胞暗号」と呼ばれています。これまでは、RNA結合タンパク質は個別に研究されてきました。しかし、本研究成果は、RNA結合タンパク質のさまざまな組み合わせにより、RNAが協働的に認識されるしくみを解明していくことが、「細胞暗号」の完全な解読のためには必須であることを示しています。本研究で行われたように、遺伝学的解析と構造学的解析さらに生物情報学的解析を組み合わせることで、生体におけるRNA加工の「細胞暗号」の体系的な解読につながっていくことが期待されます。

ポイント

  • 二つのタンパク質がサンドイッチのように一つの塩基を挟むことで、RNAの塩基配列を正確に認識するという新しいRNA認識のしくみを明らかにしました。
  • 一つの遺伝子から作られるタンパク質が細胞の種類に応じて変えられるという、RNAに隠された「細胞暗号」の解読につながると期待されます。

概要

タンパク質を作るための遺伝子では、DNAから転写されたRNAが加工(プロセシング)を受けて成熟したメッセンジャーRNAとなり、タンパク質に翻訳されます。多細胞生物では、細胞の種類によってRNAの加工の仕方を変えることで、一つの遺伝子から多様なタンパク質を産生できます。しかし、RNAの加工を制御するさまざまなRNA結合タンパク質が認識するのは4~6塩基程度の短くてあいまいな配列がほとんどで、このようなRNA結合タンパク質でたくさんの種類のRNAの加工を正確に制御できるしくみはよく解っていませんでした。

本研究では、2種類のRNA結合タンパク質RBFOXとSUP-12がegl-15遺伝子のRNAを協働して正確に認識するしくみを、核磁気共鳴(NMR)法による立体構造の解析により明らかにしました。これら二つのタンパク質は、7番目の塩基グアニン(G)をサンドイッチのように間に挟み込むことで互いの位置がしっかりと固定され、全体としてUGCAUGGUGUGという配列を正確に認識していることが明らかとなりました(図)。また、このサンドイッチ認識のためには7番目の塩基がGであり、かつUGCAUG配列とGUGUG配列が隣り合っていなければならないことが、当研究グループが開発した蛍光レポーターの解析などにより確かめられました。

図:二つのタンパク質RBFOXとSUP-12により協働認識されたegl-15遺伝子のRNAの立体構造の表面電荷モデル(左)と模式図(右)。7番目の塩基Gが二つのタンパク質にサンドイッチされている。

詳しい研究内容について

二つのタンパク質が協働してRNAを認識する新しいしくみの解明 -RNAに埋め込まれた暗号を解く手がかりに-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nsmb.2870

Kanako Kuwasako, Mari Takahashi, Satoru Unzai, Kengo Tsuda, Seiko Yoshikawa, Fahu He, Naohiro Kobayashi, Peter Guntert, Mikako Shirouzu, Takuhiro Ito, Akiko Tanaka, Shigeyuki Yokoyama, Masatoshi Hagiwara, Hidehito Kuroyanagi & Yutaka Muto
"RBFOX and SUP-12 sandwich a G base to cooperatively regulate tissue-specific splicing"
Nature Structural&Molecular Biology Published online 17 August 2014