心理ストレスを受けたときに体温を上昇させる脳神経回路を解明 -ストレス疾患の発症機構の解明に期待-

ターゲット
公開日

2014年6月27日

中村和弘 学際融合教育研究推進センター生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授(科学技術振興機構さきがけ研究者兼任)と片岡直也 同特定研究員らのグループは、心理ストレスを受けたときに体温を上昇させる脳内の神経回路のカギとなる仕組みを解明しました。

本研究成果は、米国の学術雑誌「Cell Metabolism」のオンライン速報版(米国東部夏時間2014年6月26日付け)で公開されます。

研究者からのコメント

左から中村准教授、片岡特定研究員

私たちが明らかにしたストレス信号の神経伝達経路は、脳内のストレス信号を交感神経系へ伝え、熱の産生や体温の上昇という生体反応を生み出す基本的な仕組みです(図)。この神経伝達経路を光で活性化すると、熱が作られるだけでなく、脈拍なども上昇しました。つまり、この神経伝達経路は、ストレスで心臓がドキドキする現象にも関わると考えられます。そして、強度の慢性ストレスを受けたときには、この神経伝達経路が過剰に活性化し、心因性発熱や高血圧などのストレス疾患を引き起こす可能性が考えられます。

今回得られた基礎的知見を発展させ、今後、ストレス疾患の根本的治療法の開発へつなげたいと思います。

概要

人間を含めた多くの哺乳類では、心理ストレスを受けるとさまざまな生理反応が生じます。例えば、体温、脈拍、血圧などが上昇するのは、典型的なストレス反応です。こうした反応は、天敵に狙われるなど、動物が生命の危機に直面した際に、身体能力を向上させて生存に有利に働くという生物学的意義があります。しかし、現代の人間社会では、長期にわたる過剰な心理ストレスが生体調節に異常をもたらすことで生じるさまざまなストレス疾患に苦しむ人が増えています。特に、ストレスによる高体温が長期間続く心因性発熱は解熱剤が効かないため、治療が困難となっています。こうしたストレス反応や疾患を生み出す根本的な仕組みは脳の中の神経回路にあると考えられますが、その実体はわかっていません。

そこで本研究グループは、人間関係ストレスの動物モデルである社会的敗北ストレスをラットに与え、それによって生じるストレス性体温上昇反応が生み出される脳内の神経回路の仕組みを解析しました。

その結果、研究グループは視床下部背内側部から延髄縫線核へのストレス信号の伝達が、心理ストレスによって体温を上昇させる脳の神経回路における重要な仕組みであることを世界に先駆けて解明しました(図)。

図:本研究から明らかになった、ストレス性体温上昇反応を生み出す神経回路の仕組み。視床下部背内側部から延髄縫線核への神経伝達は、前脳のストレス信号を交感神経系へ伝達するという重要な役割を担っており、その信号伝達によって熱産生ならびに体温上昇反応が駆動される。

詳しい研究内容について

心理ストレスを受けたときに体温を上昇させる脳神経回路を解明 -ストレス疾患の発症機構の解明に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.cmet.2014.05.018

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/194291

Naoya Kataoka, Hiroyuki Hioki, Takeshi Kaneko, and Kazuhiro Nakamura
"Psychological Stress Activates a Dorsomedial Hypothalamus-Medullary Raphe Circuit Driving Brown Adipose Tissue Thermogenesis and Hyperthermia"
Cell Metabolism 20, Available online 26 June 2014

掲載情報

  • 京都新聞(6月27日 26面)、産経新聞(6月27日 28面)および日刊工業新聞(6月27日 22面)に掲載されました。