高い磁気転移温度を持つハーフメタル新材料の合成に成功 -超高密度磁気メモリーなどスピントロニクスデバイスへ応用可能な新材料-

ターゲット
公開日

2014年5月23日

島川祐一 化学研究所教授、水牧仁一朗 高輝度光科学研究センター(SPring-8)副主幹研究員らの研究グループは、英国エジンバラ大学極限条件科学センター研究グループと共同で、高密度磁気メモリーや高感度センサーなど、将来のスピントロニクス分野でのデバイス応用が可能な新しいA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物材料を合成することに成功しました。

本研究成果は、2014年5月22日(英国時間)に、英国ネイチャー出版グループのオンライン科学誌「Nature Communications」で公開されました。

研究者からのコメント

左から島川教授、水牧 SPring-8副主幹研究員

スピン偏極した伝導電子を持つハーフメタルとしてこれまでに知られている材料はそれほど多くはありません。今回のハーフメタル新材料の発見は、多彩な機能性を融合する酸化物エレクトロニクスにおける材料のバリエーションを広げ、将来のデバイス開発を含めた研究を大きく発展させる成果です。さらに、今回合成に成功した新物質では、銅や鉄といったありふれた遷移金属元素が主要構成要素である点も、材料開発の元素戦略としては重要です。このような材料で、より高密度な磁気メモリーや高感度なセンサーが実現できれば、省電力・省エネルギーの観点からも、社会の発展に貢献できると考えています。

今回の成功は、化学研究所グループでの物質合成、SPring-8グループでの放射光電子状態解析、英国エジンバラ大学グループの構造評価が機能的に連携したことにより達成されたものです。

ポイント

  • 将来のスピントロニクス分野でのデバイス応用が可能な新物質の合成に成功
  • 磁性イオンの秩序配列制御により、高い転移温度と大きな磁気モーメントを達成
  • 実験と理論計算から、伝導電子のスピン偏極を実証
  • 機能性酸化物エレクトロニクスにおける材料バリエーションが拡大。

概要

超高密度磁気メモリーなどエレクトロニクスと磁性の融合した技術としてスピントロニクスが注目を集めていますが、そのようなデバイスに用いる材料は伝導電子が高いスピン偏極率を持つことが必要です。また、デバイスの安定動作には、伝導電子がスピン偏極を示す温度(磁気転移温度)が室温よりも十分に高い新材料の開発が望まれていました。

本研究グループでは、ペロブスカイト構造酸化物のAおよびBサイトにおいて、複数の元素が規則配列した新しいA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12を合成することに成功し、この物質が室温よりはるかに高い磁気転移温度と大きな磁化を持つフェリ磁性金属であることを見い出しました。さらに、電子状態の理論計算と多結晶粒界トンネル磁気抵抗効果の測定から、この材料が電気伝導特性を担う電子のスピンが偏極したハーフメタルであることも実証しました。

本研究の成果は、材料構成元素の秩序配列を設計・合成する固体化学的物質開発に基づくものです。新物質の発見により、多彩な機能を融合する酸化物エレクトロニクスにおける材料バリエーションが広がり、この分野での研究開発を大きく発展させる成果です。

A-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12の磁気構造と磁気転移温度

今回合成に成功した新物質では、AサイトにあるCu2+のスピンとBサイトのFe3+のスピンが同じ方向を向いて強磁性的に揃い、これらがBサイトに導入したRe5+スピンと反対に向いたフェリ磁性となることで大きな磁気モーメントが発現する。このようなフェリ磁性となる転移温度は560Kと室温よりもはるかに高いことも重要である

詳しい研究内容について

高い磁気転移温度を持つハーフメタル新材料の合成に成功 -超高密度磁気メモリーなどスピントロニクスデバイスへ応用可能な新材料-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms4909

Wei-tin Chen, Masaichiro Mizumaki, Hayato Seki, Mark S. Senn, Takashi Saito, Daisuke Kan, J. Paul Attfield & Yuichi Shimakawa
"A half-metallic A- and B-site-ordered quadruple perovskite oxide CaCu3Fe2Re2O12 with large magnetization and a high transition temperature"
Nature Communications 5, Article number: 3909 Published 22 May 2014

掲載情報

  • 京都新聞(6月28日 9面)、日刊工業新聞(5月23日 19面)および科学新聞(6月13日 6面)に掲載されました。