低エネルギー逆光電子分光装置(LEIPS)の開発 -有機エレクトロニクス開発・評価に革命-(2015年3月11日)

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吉田弘幸 化学研究所助教とエイエルエステクノロジー(神奈川県相模原市)は、低エネルギー逆光電子分光装置(LEIPS)の開発・製品化に世界で初めて成功し、販売を開始しました。

電気を流す特殊なプラスチックである有機半導体を利用した有機発光素子(有機EL)、有機太陽電池、有機トランジスタなどの有機半導体デバイスは、フレキシブル・軽量などのユニークな物理的特徴を持ち、生産コストが低く、希少金属を利用しない次世代デバイスとして注目されています。これらのデバイスは、ホールと電子が働くことにより動作します。しかし、これまでホールの通り道であるHOMO準位を調べる手法が確立しているのに対して、電子の通り道であるLUMO準位をデバイスと同じ薄膜試料について正確に調べる方法がありませんでした。有機半導体デバイス開発には、HOMO準位とLUMO準位の両方の情報が不可欠であることから、LUMO準位の測定手法の確立が切望されてきました。

2012年に吉田助教が開発したLEIPSは、有機半導体のLUMO準位測定を可能にする画期的な手法です(H. Yoshida, Chem. Phy. Lett. 539-540 (2012) 180-185)。この方法では、低速電子を有機半導体試料に照射し、電子がLUMO準位に入る時に放出される微弱な近紫外光を検出することで、LUMO準位を測定します。試料に照射する電子のエネルギーを分子の共有結合よりも低くすることで、従来の逆光電子分光法の問題点であった電子線による有機半導体の損傷が生じません。また、近年開発された高性能フィルターを光検出に用いることで、分解能0.25 eVを達成し、初めて有機半導体デバイス研究に必要とされる精度でLUMO準位を測定できるようになりました。

本学とエイエルエステクノロジーは、本測定法を実装した装置の共同開発を行い、製品化に成功しました。この装置は、民間企業の研究所、大学、国公立研究機関で有機半導体デバイスの設計や材料選択、動作原理の解明に幅広く活用されることが期待されます。

低エネルギー逆光電子分光装置の構成図。電子線を生成する電子銃、レンズ、バンドパスフィルター、光電子増倍管で構成された光検出器が真空容器に取り付けられている。電子銃電源、ピコアンメーターなどのエレクトロニクスにより、装置を制御し、データ収集する。

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