特発性大腿骨頭壊死症に対する医師主導治験1例目の手術が終了(2016年2月25日)

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松田秀一 医学部附属病院教授らのグループは、難病である特発性大腿骨頭壊死症において、骨再生を促す作用のある塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)含有ゼラチンゲル製剤を壊死した骨頭内に投与する医師主導治験1例目の手術を無事に終了しました。患者は30代男性、両側特発性大腿骨頭壊死症で、今回、両方の大腿骨頭が圧潰する前の低侵襲再生医療を希望され、本治験に参加されました。手術は2016年2月中旬、黒田隆 医学部附属病院助教らのチームで行われました。腰椎麻酔で、大腿部外側1センチメートルの皮切で経皮的にbFGF含有ゼラチンゲル製剤を壊死した骨頭内に投与し、片側15分程の手術時間で手術を終えました。術翌日より歩行を開始し、術後4日目に独歩で無事に退院されました。

この医師主導治験は、医学部附属病院治験審査委員会の承認を得て、臨床研究総合センターを中心とした全国の四つの大学病院の共同チームが2016年1月末より治験の登録を開始していたものです。今後さらに骨頭圧潰前の63名の患者を対象とし、有効性と安全性を術後2年間経過観察していく予定で、早期の臨床応用、標準的治療となることを目指しています。特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の一部の血の流れが悪くなることにより壊死に陥り、骨頭が潰れて、股関節の機能が著しく損なわれる原因不明の難病で、厚生労働省の難治性疾患(難病)に指定されています。特発性大腿骨頭壊死症は国内で毎年3000人の新規罹患があり、その約半数がステロイド性です。SLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病の治療でステロイド大量療法を受けられた方に生じやすく、20代や30代の比較的若い世代の方が多く含まれるのも特徴です。7割から8割程度の患者で骨頭が圧潰することがわかっており、治療方法の選択に難渋します。骨頭が圧潰した場合、若年者でも人工股関節置換術が行われていますが、耐用年数や感染、脱臼のリスク、活動制限などの問題点があり、骨頭を圧潰させない再生医療に大きな期待がかかっています。

bFGF含有ゼラチンゲル製剤が骨再生を促すことはヒトの骨折の骨癒合期間の短縮などで証明されており、大腿骨頭壊死症においても動物を用いた黒田助教らの研究によって骨頭壊死の圧潰を防止する効果が示され、ヒトへの臨床応用が期待されていました。2013年に医学部附属病院で実施した10名の患者さんを対象とした臨床試験においても、骨頭壊死部の骨再生と安全性を示す良好な結果が得られています。

今回の治験でbFGF含有ゼラチンゲル製剤の投与による有効性が示されれば、特発性大腿骨頭壊死症で悩んでいる多くの患者さんの治療に役立ち、また多くの施設で実施、普及されることが期待できます。

  1. 術前プランニング画像: 壊死部にbFGF含有ゼラチンゲル製剤を投与する経路を術前にプランニングする。黄色の部分が骨頭の壊死領域、青線が投与経路となる。
  2. 手術中のレントゲン透視画像: 手術はレントゲン透視を使用して、大腿部外側の1センチメートル程の傷から骨壊死部に向けて5ミリメートル弱の小さな穴をあけ、bFGF含有ゼラチンゲル製剤を投与する。
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