ガス田から発生する温暖化ガス(CO2)の地中貯留(CCS)事業が決定しました。(2016年3月28日)

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科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)に関して、社会実装に向けたアジア開発銀行(ADB)による本格的な出資についての覚書(MOC)が、ADB、インドネシアエネルギー鉱物資源省、JICA、プルタミナ(インドネシア国営石油会社)のあいだで締結されました。

ADBとは既に2013年6月に本研究プロジェクトに参画・出資する覚書を締結し、ADBの出資によりガス田におけるCO2地中貯留(CCS)の実現可能性を調査し、良好な調査結果が得られていました。この結果を受け、パイロット事業に要する本格的な参画の準備を進めてきましたが、今回の覚書の締結により、東南アジアで初めてとなるCCSの社会実装化が大きく前進することになりました。インドネシアでは、これまでガス田から生産される天然ガスに伴って発生する温暖化ガス(CO2)はそのまま大気放散されていました。このCO2を分離・回収し、地下に貯留する技術の開発は、当該国の温暖化ガス削減への国際的な貢献とともに、今後未開発油ガス田のクリーンな開発が促進され、将来当該国さらには日本へのエネルギー資源の安定供給に資することが期待されています。

学際融合教育研究推進センター インフラシステム研究拠点を中心とする本研究グループは、インドネシアのバンドン工科大学(ITB)を中心とする研究機関と連携し、プルタミナの全面的な支援を受け、地質・地球物理学的手法を用いてCO2を貯留できる対象地層を評価・選定し、分離・回収・貯留のための地上設備の概念設計などを行ってきました。

このたび、本プログラムの研究対象であるインドネシア中部ジャワ州のグンディガス田において、ガス生産に関係しているインドネシアエネルギー鉱物資源省、プルタミナ国営石油会社などに対し、ADBを中心にCCS施設・設備の調達に関する合意が得られ、同ガス田で分離・回収したCO2を、その付近に同社が所有する井戸を使用して地下に貯留するパイロット事業が開始されることになりました。このパイロット事業では、CO2の分離・回収、輸送、貯留のための地表設備を建設し、CO2の圧入、その後の各種モニタリングを計画しています。

本プログラムでは、それらの結果をもとに、将来のCCS事業の推進に不可欠な技術指針SOP(Standard Operational Procedure)を作成し、関係機関に提言することを達成目標としています。本事業は、インドネシア国内における初めてのCCS事業であり、その成果には各方面からの期待が集まっています。

研究の背景と目的

2015年12月にパリで開催されたCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)でも温暖化ガス(CO2)の各国の削減目標が提示され、国際的な協力の下、その実現に向けた取り組みが開始されています。親日国であり、またエネルギー資源供給の点から、日本にとって重要なパートナーであるインドネシアでは、CO2排出に対する法制度が整備されておらず、既存の産業設備からは多くのCO2が大気中に放散されています。ガス田においては、ガスの生産時に随伴するCO2の隔離方法が確立されていないため、インドネシア国内に多くあるCO2の含有量の大きいガス田の開発が停滞しているのが現状です。

一方、日本では、これまで経済産業省主導により、CCS研究および実証事業が実施されており、これらの研究や事業で得た多くの知識と経験を保有しています。

このように、CCS技術を、日本と同様に地質学的に変動帯と呼ばれる地質環境を持つインドネシアに技術移転し、将来の本格的なCCS実施に向けた技術開発と技術者教育を行うことが、本プロジェクトの目的です。

研究の内容・体制

研究開発の主要な内容は、地質・地球物理学的知見に基づく最適なCO2貯留層の選定方法、および貯留されたCO2が地層でどのような挙動を示すのかのモニタリング手法の開発と適用です。同時に、関連するCO2分離・回収・圧入方法、法規制、リスク解析、社会的受容性などに関する研究開発も行っています。その結果をもとに、最終的にはCO2の地中貯留事業に関わる技術指針を作成し、その普及を図ることを目的としています。

具体的には、CO2の貯留層評価のために、地質学的解析、室内での岩石試験、貯留層シミュレーションを合わせた貯留層評価技術の研究を行っています。また、CO2のモニタリング技術としては、反射法地震探査、電磁探査、重力探査、微小地震観測などの探査があり、これらに必要な装置や手法の開発、および得られた探査データの解析・解釈技術の研究を行っています。これらの技術を使って、CO2の動態モニタリングを圧入前後で継続的に実施する予定です。モニタリングに必要な観測機器のインドネシアへの供与を行い、供与機器を使った技術移転や人材育成も行っています。

CO2の分離・回収は、2014年に天然ガス生産が始まった中部ジャワ州に位置するグンディガス田の中央生産設備(CPP)で行う予定です。グンディガス田は生産されるガス中にCO2を20%程度含有し、現在日量約800トンのCO2を大気中に放散しています。今回のプロジェクトでは、この大気中に放散されているCO2の一部に対して分離・回収技術の適用を試み、そのCO2をさらに液化後、約22km離れたプルタミナが所有する井戸(Jepon-1)に輸送し、2年間の予定で圧入する計画です。

プロジェクトはガス田を所有するプルタミナの協力の下、研究パートナーであるバンドン工科大学(ITB)をはじめとするインドネシア国内の大学・研究機関と共同で実施しています。日本側の研究主体は、本学、早稲田大学、九州大学、秋田大学、 公益財団法人 深田地質研究所などの研究機関と石油資源開発株式会社などCCS事業に関係する企業です。

今後の展開

SATREPSのCCSに関する事業の最終年度にあたる2016年度は、モニタリング技術の中心的手法となる反射法地震探査のベースライン調査を行います。また、重力探査、微小地震観測、CO2ガスの連続観測のための諸準備を行い、CO2圧入後のモニタリングに備える計画です。これまでの研究成果をもとに、インドネシアでのCCS事業のための技術指針(案)を作成するとともに、技術移転、人材教育を継続する予定です。ADBからの地上設備建設に関わる研究資金の提供を受け、2017年度の圧入開始を目標に、設備の設計と構築に取り掛かる予定です。

署名式の様子

バンドン工科大学でのSATREPS事業による供与機器使用の技術指導

予定CO2圧入坑井(Jepon-1)

SATREPSグンディプロジェクトシンポジウム(2014年9月早稲田大学大隈講堂にて開催)

電磁探査ベースライン調査風景(2014年8月Jepon-1周辺にて実施)

地質調査の現場風景(2016年1月実施)

プルタミナのグンディ中央生産設備(CPP)(本CPPから排出するCO2を分離・回収する)