無磁場下において超伝導ダイオード効果の制御に成功―超低消費電力の不揮発性メモリなどの実現に期待―

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 成田秀樹 化学研究所特定助教、小野輝男 同教授らの研究グループは、島川祐一 同教授、菅大介 同准教授、柳瀬陽一 理学研究科教授、石塚淳 スイス連邦工科大学研究員(現:新潟大学助教)、Alexey V. Ognev 極東連邦大学教授、Alexander S. Samardak 同教授らと共同で、強磁性体を含む極性超伝導多層膜において、外部磁場を用いずに一方向にのみ電気抵抗がゼロとなる超伝導ダイオード効果を観測しました。

 ダイオード効果とは、順方向に電流をよく流す一方で逆方向にはほとんど流さない効果であり、整流器やAC-DCコンバータ等の電子機器に広く用いられています。従来の半導体ダイオードは、低温では電気抵抗が大きく動作時のエネルギー損失や発熱が問題となりますが、超伝導体では電気抵抗がゼロであるため、非散逸な電子回路への応用が期待されています。しかし、これまでは超伝導体においてダイオード効果を実現するためには、外部磁場が必要であり、実用化には限界がありました。

 本研究では、ニオブ(Nb)層、バナジウム(V)層、コバルト(Co)層、バナジウム(V)層、タンタル(Ta)層から構成される極性構造を有した超伝導/強磁性多層膜において、強磁性体であるCoの磁気状態を制御することによって、外部磁場がない状態でも臨界電流の大きさが電流方向に依存することを発見し、さらに無磁場下において超伝導ダイオード効果の方向を制御することに成功しました。この成果は、超低消費電力の新しい不揮発性メモリや論理回路の実現へ貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2022年6月30日に、国際学術誌「Nature Nanotechnology」にオンライン公開されました。

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超伝導ダイオード効果のイメージ

研究者のコメント

「近年、超伝導ダイオード効果に関する実験・理論研究が国内外で飛躍的に進展しています。本研究で作製した強磁性体を含む極性超伝導多層膜では、空間反転対称性が破れており、超伝導と強磁性が共存しています。このような超伝導体では、従来のものとは異なる電子状態が実現されている可能性があり、多層膜構造の設計自由度を活かして、今後の研究でその詳細の解明を目指していきたいと思います。」(成田秀樹)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41565-022-01159-4

【書誌事項】
Hideki Narita, Jun Ishizuka, Ryo Kawarazaki, Daisuke Kan, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Yuichi Shimakawa, Alexey V. Ognev, Alexander S. Samardak, Youichi Yanase, Teruo Ono (2022). Field-free superconducting diode effect in noncentrosymmetric superconductor/ferromagnet multilayers. Nature Nanotechnology, 17(8), 823–828.

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