京都大学大学院入学式 式辞 (2009年4月7日)
第25代総長 松本 紘

満開の桜の中、京都大学大学院に入学される修士課程2,250名、専門職学位課程352名、博士(後期)課程903名の皆さん、おめでとうございます。ご来賓の尾池和夫前総長、名誉教授、列席の副学長、研究科長、学舎長、教育部長、研究所長とともに、今日の佳き日をお祝いしたいと思います。今年は、入学式会場も、これまでの吉田キャンパス内の総合体育館から、ここ平安神宮前の「みやこめっせ」に移して、今回が初めての入学式となります。また、これまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。
大学院の修士課程では、これまでの学士課程での蓄積の上に、さらに基礎的な知識を補い、研究のために必要な技術を身につけるなど、専門家として独り立ちできるよう体系的な教育が行われます。
専門職学位課程では、高度の専門性を必要とする職業などに従事する人材を育てるために理論と実務との橋渡しが重要な課題とされており、新たな教育課程の中で学修を重ね、国際的にも活躍しうる人材として巣立つことが期待されています。
博士後期課程では、修士課程までに習得した知識や技量を基礎に、新たに自ら研究計画を構想し、研究を遂行することが中心となります。そして、研究の成果として論文をまとめ、学術誌などによりその成果を国際的に発表していくことになります。
大学院で学ぶということについて、1つアドバイスをしておきたいと思います。大学院では、各自が「自らの研究テーマ」を持ち、それを育てる必要があります。これは具体的には「問い」の発見ということになります。研究において最も苦しいことは実はこの部分かもしれません。そして、この「自分の研究テーマ」をどのような観点から、どのように攻略するかを寝ても覚めても考え続けることが、大学院の日々の生活の基本となります。
攻略のためには、必要となる知識を獲得していくことも必要なことなのですが、学問という未知の世界の開拓においては、あまり的をしぼりすぎる学習には限界があるように思えます。それは一見無駄がなく効率的に見えるかも知れませんが、専門の枠を超えるような大きな独創の芽を摘むことになるかもしれないのです。自らの専攻する分野のみならず、理系文系を問わず、他の分野の学識を豊かにすることによって、専門分野における既存の枠組みではとらえられなかった視角が与えられ、独創的な攻略法にたどり着く可能性を忘れないでください。そして、皆さんの後に道ができるような独創的な研究をぜひ実現してください。
私はいつも「学問とは真実をめぐる人間関係である」と思っています。人間は、個体では生きていけない弱い生物です。人類は進化の偶然で生まれました。その人間は社会を作り、共生し、知識を積み上げ、常に新しいことに挑戦することで、地球上を覆うほど繁栄することになりました。それは単純化してみると人間関係による繁栄と言っていいのではないかと考えています。

これまでの人生の重要な位置に、私には職業としての学問がありました。学問をやってきて人間関係を勉強したのではなく、人間関係をもとにして学問をさせてもらったと私は思っています。非常に頭がよくて優秀な人が、なぜか学問がうまくいかないことがあります。それは人間関係がうまくいかなかったのかもしれないと私は推測するわけです。例えば、私たちは資料を調べるにも、データをとるにも、部分的には人を頼ることになります。そうすると、どういう人間関係を築くかによって研究の成果は大きく変わる可能性があります。人間関係がうまくいかないと大事を成し遂げ得ないというのは、人間の本質ではないでしょうか。論文を書く場合でも、人の論文を読み、人と議論し、自分を高め、独創性を発揮するわけです。独創性を発揮するということは、まさしく人間関係そのものと思えるのです。
もちろん学問はそういう側面だけではなくて、非常に客観的で、特に自然科学の場合はだれがやっても同じ結果や結論を導き出せるという一種の再現性が重要です。だから、人間関係なんか関係ない、数式を基礎に、厳密な自然観察をして客観的な事実を積み上げていけばいいという考えもあるかもしれませんが、私はそれには与しません。それは一種当然ことですが、その上に積み上がる独創性の大きさこそは人間関係で決まるのだろうと思うのです。
皆さんが、京都大学の学生として、更なる高みを目指す気概を持ち、積極的に豊かな人間関係を築き、既成概念にとらわれない「問い」を自ら発しながら、新たな学問、課題解決への道程を切り開いていかれることを願っています。本学には、約3,000名の教員と2,500名の職員が在職しています。世界有数の研究を日々推進している本学の教授陣は皆さんの人間関係のネットワークの中で自学自習を助けてくれることでしょう。
最後になりましたが、ここに入学を迎えた方々の中には、大きな能力や資質を持っていて、まだそれを明確に自覚してない人も多いかもしれません。自分の才能を見つけることも学問を志す人にとって大きな発見の一つです。教育は、その人の持っている能力を最大限に引き出すものでなければなりません。京都大学が皆さんの能力を引き出す場であって欲しいと願っています。また本学には、大学院を中心にして1,400名におよぶ留学生や多くの海外からの研究者も在籍します。世界有数の大学との学生交流協定も数多く締結していますので、世界的な視野からの学修も拡げて欲しいと思います。
私は、人生を樹に例えることができると思います。大樹が育つには、肥沃な大地が必要です。土壌を富ますことなく、外見のみを整え、栄養を与えるだけでは、大樹は育ちません。大学という大地を肥沃にする努力は役員も教職員も懸命にいたしますが、自らも大きな根を伸ばすことによって、その大地を耕し、さらに肥沃な大地へと貢献してほしいと思います。そのためには、専門分野のみに力を注ぐのではなく、あらゆる場面において独創性、適応性、柔軟性を発揮できるよう、人間力も豊かなものとしなければなりません。これからの社会は大きな視野と柔軟な考え方、難問に対する挑戦力を備えたリーダーを必要としています。単に学修・研究領域の専門に留まらず、これまで以上に皆さんが自身を広く、深く耕していただきたいと思います。皆さんが、京都大学の学生として、更なる高みを目指す気概を持ち、既成概念にとらわれない「問い」を自ら発しながら、新たな学問、課題解決への道程を切り開くと同時に自分自身の価値を高めていかれることを願っています。
京都大学の豊富な学術資源を活用し、更なる研鑽に努めるとともに、心も体も鍛え、皆さんが元気に活躍されることを願い、私のお祝いの言葉といたします。
大学院入学、誠におめでとうございます。
動画は以下のページをご覧ください
大学の動き
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